【飲食道】第1回:「流行る店」と「続く店」の決定的な違い

皆様、はじめまして。株式会社テイスティーズ代表の水谷建治です。

この度、私の長きにわたる飲食業界での経験と哲学を凝縮した、連載コラム「飲食道」をスタートさせることになりました。東京のこの地を拠点に、国内外多くの店舗プロデュースに携わり、自らも現場に立ち続けてきた私が、激動の時代を生き抜くための本質的な知恵を、皆様にお届けしたいと思います。

栄えある第1回のテーマは、「『流行る店』と『続く店』の決定的な違い」です。

飲食経営に携わる全ての人が抱く、最もシンプルで、かつ最も深い問いではないでしょうか。一見、どちらも「成功」しているように見えますが、その実態と未来は驚くほど異なります。なぜある店は一時の熱狂を生み、その後静かに消えていくのか。そして、なぜある店は10年、20年と愛され続け、その存在感を増していくのか。50年の時を超えて見えてきた、その決定的な違いについて、本音で語りたいと思います。

目次

一、流行る店の正体:砂上の楼閣

「流行る店」は、一瞬の輝きで人々を魅了します。SNSで話題になり、行列ができ、メディアがこぞって取り上げる。そのエネルギーは凄じく、オーナーにとっては夢のような成功に見えるでしょう。しかし、流行には「終わり」があります。

流行る店の多くは、「新しさ」や「話題性」を原動力にしています。これまでになかったビジュアル、奇抜なメニュー、あるいは著名人によるプロデュース。これらは強力な「フック」になりますが、同時に「飽きられる」というリスクを常に孕んでいます。新しさが古くなった瞬間、流行は去り、砂上の楼閣のように崩れ去るのです。

流行る店は、往々にして「点」で勝負しています。一つのヒット商品、一つの話題性、一つのトレンド。それらが噛み合えば大きな爆発力を生みますが、その依存度が高いほど、一つの変化で全てを失いかねません。流行に流されることは、自らの運命を他者に委ねることと同じなのです。

二、続く店の本質:盤石な基盤と選ばれる理由

対照的に、「続く店」は、流行という荒波に揉まれながらも、その根を深く張っています。一時の熱狂はないかもしれませんが、常連客に愛され、地域に根付き、不況の波も乗り越えていく。その強さは、どこから来るのでしょうか。

続く店の最大の特徴は、流行り廃りのない「本質的な価値」を提供している点にあります。それは単に「美味しい」ということだけではありません。なぜお客様がその店を選び続けるのか、その「理由」が明確で、かつ普遍的であることが重要です。例えば、「心温まる接客」「変わらない味」「日常を忘れさせてくれる空間」。これらは時代がどう変わろうとも、人々が求める価値です。

続く店は、「仕組み」と「哲学」で勝負しています。ヒット商品に依存せず、安定した品質、効率的な運営、そして何より、オーナーの強い想いや信念が込められた「哲学」が、店全体に浸透しています。財務的な安定も、その基盤を支える重要な要素です。私はこれを「飲食道」と呼んでいます。流行という表面的な現象ではなく、その奥にある本質的な価値を追求することこそが、続く店への唯一の道なのです。

三、50年で見えてきた、経営者の「QSC」

飲食業界で「QSC」といえば、Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(清潔さ)のことであり、現場運営の基本中の基本です。しかし、50年という歳月の中で、何百という店の興亡を見てきて確信したことがあります。それは、真に「続く店」には、現場のQSCを超えた、経営者自身の「QSC」が存在するということです。

経営者の「Q」とは、提供する価値に対する「覚悟」です。一時的な流行に迎合せず、自分が信じる「本物」を提供し続けるという、揺るぎない覚悟。それがQSCのQ(品質)の根源となります。

経営者の「S」とは、お客様、スタッフ、そして自分自身の人生に対する「誠実さ」です。目先の利益を優先せず、誠実な商売を貫く姿勢。それがQSCのS(サービス)の精神的支柱となります。

経営者の「C」とは、経営数値、現場の状態、そして自分自身の心に対する「清潔さ(清廉さ)」です。ごまかしのない財務管理、現場の小さな変化を見逃さない観察力、そして常に謙虚であること。それがQSCのC(清潔さ)を現場に浸透させる力となります。

現場のQSCを高めるのは、マニュアルや教育かもしれません。しかし、それを永続させるのは、経営者自身の内面にある、この「経営者のQSC」なのです。50年経っても変わらない「本物の価値」は、この覚悟、誠実さ、清廉さからしか生まれません。

四、「続く店」を作るための、見えない道具箱

「続く店」は、一日にして成らず、です。それは、流行という風を捉えるのではなく、時代という大地にしっかりと根を張る作業です。そのために必要なのは、目に見えるヒット商品や話題性ではなく、経営者の道具箱の中にある「見えない道具」たちです。

その道具箱の一つ目は、「財務感覚」という名のコンパスです。目先の売上に惑わされず、キャッシュフローを把握し、持続可能な利益構造を築くための視点。それは、現場のQSCを高めるための投資を行うための、冷静な判断力をもたらします。

二つ目は、「仕組み作り」という名の設計図です。特定の個人(例えばオーナーや熟練スタッフ)の技術や魅力に依存せず、誰もが安定した品質を提供できるシステム。それは、店を「点」から「面」へと拡大させ、QSCを組織的に維持する力となります。

三つ目は、「人材育成」という名の種まきです。スタッフを単なる労働力としてではなく、共に「飲食道」を歩むパートナーとして捉え、彼らの成長を信じて育てる姿勢。それは、お客様に感動を与える誠実なサービスを、現場から自発的に生み出す土壌となります。

これらの「道具」は、一朝一夕には手に入りません。自らの現場で汗をかき、失敗を重ね、悩み抜く中で、一つ一つ磨き上げられていくものです。そして、私たちテイスティーズは、貴方の道具箱にあるこれらの道具を、共に磨き、使いこなすためのパートナーでありたい。机上の空論ではなく、50年の実戦経験に基づいた「見えない道具」の使い方を伝えること。それが、私が一生現役としてできる、最大の貢献だと信じています。

結びに代えて

貴方の店は、10年後も愛されていますか?

流行を追うな。価値を追え。流行に流されることなく、自らの信念を貫き、本物の価値を追求することこそが、続く店への唯一の道です。私は、その挑戦を続ける全ての飲食経営者を、一生現役のパートナーとして、全力でサポートします。

共に、新しい「飲食道」を切り拓いていきましょう。

株式会社テイスティーズ 代表取締役 水谷建治

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