皆様、こんにちは。株式会社テイスティーズ代表の水谷建治です。連載コラム「飲食道」の第2回目を、ここ東京の拠点からお届けいたします。
第1回では、「『流行る店』と『続く店』の決定的な違い」についてお話ししました。流行に流されず、持続可能な価値を創造すること。それは、一時的な熱狂を作ることよりも、はるかに難しく、はるかに価値のある挑戦である、と。
今回は、より具体的なテーマに踏み込みたいと思います。それは、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録された「和食:日本人の伝統的な食文化」についてです。
和食世界遺産登録の陰で:喜びと、その一方で感じる懸念
和食が世界的な評価を受け、無形文化遺産として登録されたことは、日本人として大変喜ばしいことです。世界中で和食レストランが増え、日本の食文化に対する関心が高まっています。しかし、その一方で、私は長年飲食の現場に身を置いてきた一人として、強い懸念を抱かずにはいられません。
なぜなら、世界で称賛されている「和食」の陰で、私たち日本人が日常的に、自宅で食べてきた本来の「和食」が、急速に失われようとしているからです。

失われゆく「家庭の和食」:調理時間の減少と、レトルト・惣菜への依存
世界遺産登録の際、評価されたのは、単なる料理の味や見た目だけではありませんでした。「自然の尊重」に基づき、「季節の食材」を使い、「栄養バランス」に優れ、「正月などの年中行事」と密接に結びついた、日本人の「食生活のあり方」そのものが評価されたのです。
しかし、現代の日本社会はどうでしょうか。
忙しい現代人には、自宅で素材から丁寧に和食を調理する時間がありません。買ってきた惣菜、レトルト食品、冷凍食品が、食卓を席巻しています。スーパーに行けば、季節を問わず、同じ野菜が並んでいます。季節感のない、季節の味の違いもわからない食生活が、当たり前になりつつあります。
おばあちゃんからの伝承の断絶:和食は「レトルトの味」になる
かつて、家庭の和食は、おばあちゃんから母親、そして子供へと、日々の生活の中で伝承されてきました。「季節の野菜は、こう切ると美味しい」「この漬物は、おばあちゃんの味」と。しかし、現代では、親から料理を教わっていない母親も少なくありません。そうなると、子供に和食を教えることも、おばあちゃんからの伝承を伝えることもできません。
結果として、子供たちにとっての和食は、「素材から作った味」ではなく、「レトルトの味」が「家の味」になってしまいます。出来立ての美味しさと、温め直したものの違いを知る機会がないのです。

時代の流れだが:外食で「本物の味」を知ってほしい
もちろん、時代の流れだから仕方ないという側面もあります。惣菜やレトルト食品は、忙しい現代人にとって必要不可欠なものです。しかし、私は「仕方ない」で済ませてはいけないと思うのです。なぜなら、出来立ての和食には、温め直したものとは違う、「本物の美味しさ」があるからです。
だからこそ、私は、家庭で出来立ての和食を食べる機会が減った代わりに、外食した時には、ぜひ「本物の味」を知ってほしいと願っています。
外食での和食の現状:チェーン店利用の多さと、個人の手作り店の貴重さ
しかし、外食もまた、チェーン店の利用が多く、やはりセントラルキッチンで大量生産されたものが中心です。自ら目利きして仕入れ、注文後に調理し、出来立ての美味しい料理を提供している、個人の手作り店は、本当に貴重な存在になりつつあります。
長年地域で愛された店も、後継者がいないために、閉店していくのを、私は何度見てきたことか。本当に残念でなりません。

個人の店の価値:お客さんとお店の主人のつながり
個人の店には、チェーン店にはない、特別な価値があります。それは、お客さんとお店の主人とのつながりです。
主人は、常連客の誰が何が好きで、何が苦手かも知っています。「今日は、あの人が好きそうな、いい魚が入ったから、これを焼いて出そう」と。家庭的でホッとする、笑顔で迎えてくれる嬉しさ。自分のことを知っていてくれる嬉しさ。私は、そんな飲食店こそが、本物だと思うのです。
まとめ:チェーン店を否定するものではない。個人の店をもっと愛してほしい
もちろん、私はチェーン店を否定するものではありません。チェーン店は、安価で均一な味を提供し、多くの人々の食生活を支えています。それはないと困るものです。
最近は、ちゃんとお店で仕込みをすることにこだわったチェーン店もあり、私はそれを「すごい」と尊敬しています。
しかし、和食が世界遺産になった今、私たち日本人は、もう一度、本来の「和食」の価値を見直すべきではないでしょうか。家庭で素材から調理する機会は減っても、外食した時には、ぜひ、個人の手作り店を訪れ、出来立ての「本物の味」を体験してください。そして、地域で長年愛された貴重な店を、もっともっと愛してください。
それこそが、和食という素晴らしい文化を、次世代へと継承していく、唯一の道だと私は信じています。
株式会社テイスティーズ 代表取締役 水谷建治


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